労働者にとって、適正な睡眠時間を確保することは非常に重要ですが、そのためには労働時間との関係を見直す必要があります。特に、勤務時間が長くなるほど、睡眠時間が短くなり、疲労が蓄積しやすくなるという傾向があります。
本記事では、厚生労働省が公開している「健康作りのための睡眠ガイド2023」[文献1]を参考に、労働時間と睡眠時間の関係について詳しく解説し、適切な睡眠時間を確保するためのポイントを紹介します。
労働時間が睡眠時間に与える影響
米国で行われた大規模な調査によると、睡眠時間の短縮と最も強く関連している要因は勤務時間の長さでした。次いで通勤時間を含む移動時間の長さも、睡眠時間に影響を与える要因として挙げられています。[文献2]
日本でも、労働時間が睡眠時間に与える影響が明らかになっています。
ある調査[文献3]によると、1日当たりの労働時間が7時間以上9時間未満の人を基準にした場合、男性の場合、労働時間が9時間以上の人は睡眠時間が6時間未満になるリスクが2.76倍、11時間以上の人では8.62倍に増加することが報告されています。女性も同様に、9時間以上働く人は睡眠時間が6時間未満になるリスクが2.71倍、11時間以上の人では5.59倍に増加します。
さらに、時間外労働が1日当たり5時間を超えると、睡眠時間が著しく短くなることが分かっています。[文献3]これは、十分な睡眠時間を確保するために、長時間労働の是正や労働時間の適切な管理が必要であることを示しています。
勤務間インターバル制度の導入
働き方改革の一環として、休息時間を十分に確保するための取り組みが進められています。
例えば、「勤務間インターバル」制度の導入が企業の努力義務として定められています。これは、退勤から次の出勤までに一定の休息時間を確保する制度で、特に交替制勤務などの不規則な勤務形態が多い職種においては、睡眠時間の確保に有用です。
日本の労働者を対象とした調査[文献4]では、勤務間インターバルが12時間未満の人々が、睡眠休養感の欠如や疲労感の増加、ストレスの増大を感じていることが報告されています。つまり、勤務間インターバルを十分に確保することで、疲労回復やストレス軽減につながることがわかります。
規則正しい生活習慣の重要性
勤務間インターバルを活用することは有益ですが、さらに健康的な睡眠を確保するためには、睡眠の質を向上させるための工夫が必要です。
例えば、睡眠をとる時間帯が日によって大きくずれないようにすることが重要です。規則正しいスケジュールで睡眠時間を確保することが、体内時計を整え、より良い眠りをサポートします。
仕事・育児・家事の分担で睡眠時間を確保
また、平成27年の国民健康・栄養調査[文献5]では、睡眠の確保の妨げとなっている要因として、男性は「仕事」、女性は「育児・家事」が上位に挙がっています。特に女性の場合、育児や家事の負担が睡眠時間に大きな影響を与えていることが分かります。
睡眠時間を確保するためには、仕事だけでなく、家庭内での育児や家事も適切に分担することが必要です。家庭内での協力を進めることで、より効率的に睡眠時間を確保し、健康的な生活を送ることができます。
結論
労働時間が長くなると、睡眠時間が短縮され、疲労が蓄積しやすくなります。そのため、労働時間と睡眠時間のバランスを見直し、適切な睡眠を確保することが重要です。勤務間インターバル制度の活用や規則正しい生活習慣の確立に加え、仕事と家庭内での協力によって睡眠時間を確保し、健康的な生活を送ることが、現代の働き方において不可欠です。
参考文献
[2] Basner M, Fomberstein KM, Razavi FM, Banks S, William JH, Rosa RR, Dinges DF.
American time use survey: Sleep time and its relationship towaking activities. Sleep 30:
1085-1095, 2007.
[3] Ohtsu T, Kaneita Y, Aritake S,Mishima K, Uchiyama M, Akashiba T, Uchimura N, Nakaji S, Munezawa T, Kokaze A, et. al. A cross-sectional study of the association between working hours and sleep duration among the Japanese working population. J Occup Health 55: 307-311, 2013.
[4] Tsuchiya M, Takahashi M,Miki K, Kubo T, Izawa S. Cross-sectional associations between daily rest periods during weekdays and psychological distress, non-restorative sleep, fatigue, and work performance among information technology workers. Ind Health 55: 173-179, 2017.