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光と睡眠:体内時計を整えるための光の活用法

睡眠の質を向上させるために、実は私たちの身の回りにある「光」が大きな影響を与えていることをご存知ですか?正しいタイミングで光を浴びることは、体内時計を調整し、良質な睡眠を促進するために非常に重要です。

本記事では、厚生労働省が公開している「健康作りのための睡眠ガイド2023」[文献1]を参考に、朝日や日中の光、そして夜間の照明の影響について解説していきます。

朝日の力で体内時計がリセットされる

起床後に朝日の強い光を浴びることは、私たちの体内時計をリセットし、睡眠・覚醒リズムを整えるために非常に効果的です。朝日を浴びると、脳の覚醒度が高まり、日中の活動に必要なエネルギーが供給されるため、目覚めがスッキリとしたものになります。実際、朝の光は、体内時計を調整するために非常に重要な役割を果たします。[文献2]

さらに、日中に光を多く浴びると、夜間に分泌されるメラトニンの量が増加し、入眠がスムーズになります。これは、1,000ルクス以上の照度の光を浴びることで得られる効果です。朝目覚めたら、部屋に朝日を取り入れ、日中もできるだけ日光を浴びるように心がけると、夜の眠りに良い影響を与えることが期待できます。[文献3]

メラトニンと光:睡眠の大敵「夜間の光」

就寝の約2時間前から、睡眠を促すホルモンである「メラトニン」の分泌が始まります。しかし、この時間帯に強い光を浴びてしまうと、メラトニンの分泌が抑制され、入眠が遅れたり、睡眠の質が低下したりすることが報告されています。[文献4]特に、照明やスマートフォンの強い光は、体内時計に悪影響を与えることがあるため、寝室での光環境にも注意が必要です。

現代社会では、夜間に照明の光を浴びることは避けられませんが、日中にしっかり光を浴びておくことで、夜間の光による悪影響を減少させることができます。これにより、睡眠・覚醒リズムが乱れることなく、良質な睡眠を確保できるようになります。[文献5]

夜間の光曝露と睡眠の質

夜間に光を浴びることが睡眠に与える影響については、多くの研究が行われています。低い照度の光でも中途覚醒を引き起こし、睡眠の効率を低下させることがわかっています。観察研究の系統的レビューでも、夜間の光曝露が睡眠障害と関連していることが報告されています。[文献6]

特に、近年の照明器具やスマートフォン、タブレット端末にはLEDが使われており、これらのデバイスが発するブルーライト(短波長光)が体内時計に強い影響を与えます。そのため、寝室にはスマートフォンやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることが良い睡眠に寄与します。眠る前にデバイスを使うことを避け、リラックスした環境を整えることが大切です。

体内時計に影響を与えやすい波長

私たちの体内時計の中枢である視交叉上核は、外部環境と体内環境を同期させる重要な役割を担っており、その同期には主に光情報を利用しています。

2002年に、体内時計を調整する光の受容細胞として、網膜に存在する光感受性網膜神経節細胞が発見されました。[文献7]この細胞にはメラノプシンという感光色素が含まれており、460〜480nmの短波長の光に特に敏感です。そのため、同じ強さの光でも、ブルーライトのような波長が最も強く体内時計に影響を与えることがわかっています。[文献8]

まとめ:光環境を整えて質の高い睡眠を

良質な睡眠を得るためには、光のタイミングと強さが大きな影響を与えます。朝に強い光を浴びて体内時計をリセットし、日中はできるだけ自然光を浴びるように心がけましょう。

一方、夜間の光は睡眠を妨げる原因となるため、寝室の光環境を整えることも大切です。特に、スマートフォンやタブレット端末のブルーライトに注意し、寝室はできるだけ暗くして、リラックスした状態で眠ることが理想的です。

光環境をうまく活用して、毎晩質の高い睡眠をとり、健康的な生活を送りましょう。

参考文献

[1] 健康作りのための睡眠ガイド2023

[2] Czeisler CA, Gooley JJ. Sleep and circadian rhythms in humans. Cold SpriHarb Symp Quant Biol 72: 579-597, 2007.

[3] Obayashi K, Saeki K, Iwamoto J, Okamoto N, Tomioka K, Nezu S, Ikada Y, Kurumatani N. Positive effect of daylight exposure on nocturnal urinary melatonin excretion in the elderly: A cross-sectional analysis of the HEIJOKYO study. J Clin Endocrinol Metab 97: 4166-4173, 2012.

[4] Obayashi K, Saeki K, Iwamoto J, Okamoto N, Tomioka K, Nezu S, Ikada Y, Kurumatani N. Effect of exposure to evening light on sleep initiation in the elderly: a longitudinal analysis for repeated measurements in home settings. Chronobiol Int 31: 461-467, 2014.

[5] Xu YX, Zhang JH, Tao FB, Sun Y. Association between exposure to light at night (LAN) and sleep problems: A systematic review and meta-analysis of observational studies. Sci Total Environ. 857: 159303, 2023.

[6] Hattar S, Liao HW, Takao M, Berson DM, Yau KW. Melanopsin-containing retinal ganglion cells: Architecture, projections, and intrinsic photosensitivity. Science 295: 1065-1070, 2002.

[7] Cajochen C, Münch M, Kobialka S, Kräuchi K, Steiner R, Oelhafen P, Orgül S, Wirz-Justice A. High sensitivity of human melatonin, alertness, thermoregulation, and heart rate to short wavelength light. J Clin Endocrinol Metab 90: 1311-1316, 2005.

[8] Czeisler CA, Duffy JF, Shanahan TL, Brown EN, Mitchell JF, Rimmer DW, Ronda JM, Silva EJ, Allan JS, Emens JS et al. Stability, precision, and near- 24-hour period of the human circadian pacemaker. Science 284: 2177-2181, 1999.

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